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ブエノス郷愁Part2 瞳の奥の秘密

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先週より更に色づいた桜の紅葉の中、恵比寿にお散歩

ほんの少ししか観ていないここ1,2年の(まじめな)映画の中では最高傑作。アカデミー外国語賞を受賞したアルゼンチン映画。サスペンスであり大人の恋愛映画でもあり、アメリカでは勿論ヨーロッパでも無い、南米だからこその映画だと思う。熱い想いと、それが故の不気味な結末。ボルヘスやプイグを生んだ国の映画だなあ。(公式サイト)ほんとうは今年の夏に上映されたらしいが、たまたま恵比寿で短期リバイバル上映。観たかったのが観れて、それが予想よりも面白くて満足。

「刑事裁判所を定年退職したベンハミンは、25年前に担当した未解決の殺人事件についての小説を書くことを決意する。事件当時の職場を訪れ、元上司の検事補イレーネと再会したベンハミンは、イレーネとともに当時の捜査を振り返りながら、殺人事件の裏側に潜む謎に迫っていく……。終わっていたと思っていた事件と、そして終わっていたと思っていた彼のイレーネへの想い、それはまだ続いていた。」

実は、この映画の「25年前」即ち殺人事件が起きて、裁判所の書記官(ノンキャリ)ベンハミンと部下のパブロ、米国コロンビア大出身のキャリアな判事補イレーネが、捜査をしていた時代、私はブエノスアイレスに居た。ペロン大統領(エビータの夫)が病死して、2番目の妻イサベル(副大統領)が政権を握った年。その2年後にはクーデターがおき軍事政権が誕生した。私は軍事政権になる直前に帰国した。ハイパーインフレで、父親がにわか金持ちになった時、いい思い出しかないが実は国は大変だったらしい。マンションの窓から、ヌエベデフリオ(7月9日)通りが見え、大統領の葬列が通りを通っていったのを覚えている。イサベルはただの大統領の妻であり政治能力は無く、政治も経済もメタメタ、犯罪や汚職も蔓延していたようだ。この映画でも、やっとこさつかまえた殺人犯人が、取引によりあっさり釈放され、逆に書記官達が狙われる。

ノンキャリで年上のベンハミンとキャリアで若くて美人なイレーネの、プラトニック・ラブ。ラテン人にプラトニックなんて言葉があるのかと想う。ベンハミンを避難させるときの別れのシーン、ただ見つめあうことしか出来ない二人。ラティーノなのに。そしてお互いが別の人と結婚し、過去と決別したはずの25年後、事件を小説にしようと過去を紐解くと同時に自分の中のイレーネへの想いまでもがまた湧き出る。いやだから60歳の設定じゃないのか。愛に年齢関係ないし。それでこそラテン人。25年たって漸く愛を告白する。相手家庭持ちなんだけど。愛に家庭事情関係ないし。それでこそラテン人。

サスペンスとしては、新妻を残虐な手口で殺された夫の冷めない熱い想い、その裏腹の深い深い憎しみ。「ボクは死刑制度は反対だよ。この国がそれが無いのは正解だ。だって、死んでしまったら苦しみから解放されるんだ。ボクはずっと苦しむのに。それは不公平だよ」まあこのセリフに尽きるかなあ。最後はいや衝撃的だった。

物悲しいピアノだけのミニマムなBGM。そして心地よいアルゼンチンスペイン語。色んな要素が満足した映画だった。主人公俳優の年齢を刻んだ大人の男の風貌が良いです。髭と皺が魅力的。当時世界的流行のもみ上げヘアイケメンの被害者夫は、25年後にはもみあげどころかちょっと悲しい頭になっていたのは笑えた。こんなに髪の毛が無くなっても、想いは衰えなかったのねえ。。愛は恐ろしい。

by violatsubone | 2010-11-14 01:30 | 映画/TV