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爺さん最後の日@読響

スクロバさんが登場した時、まだ1音も演奏しちゃいないのに「ブラボー!」が聴こえた。なんだか今日の聴衆は元気だな。拍手も既に終わったかのような盛大な拍手だ。流石ミスターSは違う。このオケは観客も団員もやる気があるときとない時との差が激しい。拍手もまばら、客席も空席が目立ち、オケは指揮者の言うがままに気の無い演奏をする、なんて事もままあり、その落差が楽しいオケだったりする。しかし彼らのやる気はやはりこの爺様に頂点を合わせてきたか。びよらのYAS氏も観客みたいにうきゃうきゃ嬉しそうだ。きっとこの人は天然系天才なのだと思う。
ブルックナー8番。こいつがまた長い曲だ。デートの曲としてこれほど相応しくないものは無い。ドライブの友としても最低だ。私はこの長々としたもてない作曲家の曲は、ある程度の引き締まりと厳しさがあり、そこから崇高なもんが垣間見られるのが好きだ。高齢にも関わらずキリリと締まった無駄の無い演奏をするスクロバお爺さんのブルックナーは、たいして思いいれもないこの作曲家の中では楽しみである。4楽章の勇壮な金管の出だしがむちゃくちゃカッコイイこの曲。後は実は他の交響曲と区別つかなかったりして、またH氏に「一度くらい聴いたことありますかね?」と小馬鹿にされるのだが、1度や2度じゃ区別つかんわい。
相変わらず締まりのよいスクロバさんの指揮、俄然やる気が違うよみーな団員達。イケメンじゃない地味なおぢさんが多いこのオケは確かにブルックナー演奏するにはぴったりだ。引き締まったきりりとした音がオケからでる。ブルックナーっぽい地上の色気や妄想(笑)を排除した、厳しい響き。この脂肪分ゼロの峻厳さが良い。中低弦の音が太くて厚いのも、向いている。2楽章のびよらの響きわたる音。流石YAS軍団。教会で聴いたら天使が喜びそうな3楽章、F原さんのばよりんも凛としている。4楽章の出だしの弦刻みがかっこよい。金管は大音量なれど音がくっきりしておりブラボー。最後まで全くだれることのない演奏だった。殆ど速度落とさずクールに終了した後、観客席には全員一体となった沈黙。誰も息すらもしていない?静寂。その後のブラヴォー。流石、スクロバ目当てに、スクロバのブルックナー目当てに来ている客が多いだけある。この一体感は凄いね。団員もアマオケの様に足をバタバタさせて(一番目立ったのはもちろんYASさん。靴が綺麗に磨いてあるな、キラキラしてるわ、という印象も強い)喜んでいる。こういうのが演奏以外にも会場に足を運んでよかったと思う時。観客の、スクロバさんへの感謝と感動の想いが鳴り止まない拍手にこめられている。渡された花束が、季節を考慮して桜だったのはいいが、あれはまとまらんのだよ。包装がべろっとまくれてしまっていた。なんてくだらないことに反応していた我々だが、それでも楽しんだのだ。
いやあ流石スクロバさんの拍手はすごいな。団員が退場したのに拍手送ってる。いやすばらしい観客だ。胸が詰まるね。しかしこの鳴り止まなさは一体。はたと思いついて、おれんじさんに言った。
「ねえ、このおじいさんひょっとして今日が常任最後?」

しばし沈黙と冷たい視線をよこして、おれんじさんは低い声で答えた。
「観客2000人近くいて、今日最後だって知らないの、あんただけだろうね」

外で待っていた知り合いたちに早速ばらし、皆が唖然としたり愕然としたり、爆笑されたり。
あたしは曲名と指揮者だって知ってたし、1曲プロだからとタクシー運転手を恫喝してまで演奏会場について全曲居住まい正して聴いたということで自分的には素晴らしいと思ってるのに、1950人くらいの観客の一番下だったとは、心外だわ。最後から2番目の演奏だって、私は暖かく拍手してあげたわよ。

by violatsubone | 2010-03-26 19:00 | 音楽鑑賞