チコさまと業界人達

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チコさま、とファンには呼ばれているようだ。アルド・チッコリーニ。齢85歳のピアニスト。
2年に一度の来日、2日間の演奏会。「じ・あーと・おぶ・あるどちっこりーに」の第2夜。
新日フィルをバックにベートーヴェンの協奏曲3番&4番。

この日はびよらの康さんリサイタルもあったのだが、このお爺さんの演奏会を聴くことにした。私は随分前に彼の演奏を聴いている。今だにいつ何処でだったか覚えていない。澄んだ、クリスタルの様な輝きを持つ音色だった。個人的に誰かを追いかける程入り込まないちゃら女なので、その印象だけしか覚えていない。勿論自分でチケットを探し当てたわけではなく、べっちの案内だ。
会場に行ったら、彼女の「業界人」知り合いが沢山来ていた。皆熱心なファンで、始まる前から興奮している。勿論またしても私が一番薄い。
指揮者もハウシルト?とかいうこちらの70歳過ぎのお爺さんで、二人でいたわりあうようにしながらひょこひょこ登場する様は老人ホームの友達同士が散歩しているよう。チコ爺さん、あそこまで歩けますか?私は大丈夫ですよハウ爺さん。ピアノ椅子にすわりますから。指揮台で立って大丈夫ですか?いやいや爺さんの音色が支えてくれますよ・・。
こんなに、澄み切ったベートーヴェンってあったかしら?ベートーヴェンのピアノは、何か熱情や激しさを秘め、やや硬めで、がつんと弾く、なんて演奏を聴く事が多く、それもそれで「らしくて」好きなのだけど、心洗われる様な優しいベートーヴェンは初めて。濁音ゼロ。フォルテでも角がなく、しかし芯はしっかりしており、寧ろ水分も少ない、玉が転がる様なリリカルな音。煌びやかというのも違う、艶やかでも無くて軽くもなくて、兎に角曇りも濁りも無い、摩周湖の水の様に透明度の高い音だ。(ああしかし私の賞賛言葉の引き出しの少ないことよ)。新日フィルを初めて聞いたが(今日、聞いたこと無いとつぶやいたのは記憶違いだった)ビブラートも控えめに、ピアニストをそれこそ慈しむ様な優しく包み込む伴奏だったことも素晴らしかった。オケの音色とピアノの音色がフィットしていた。もしピアニストによって全く違う音色の伴奏になるのだとしたらこのオケってすばらしいのだと思う。
3番と4番の後に30分の休憩、演奏中に時々こんこんと咳をしていたチッコリーニさんにたいして休憩時間にあちこちで気遣いの会話が聞こえる。1時間でも2時間でも休憩していいのよね、なんて、ファンも優しい。
4番のコンチェルトは、内省的で私は3番よりも寧ろ好きだし、チッコリーニさんのクリスタルなピアノではより似合っているのではないかと思う。そしてアンコールのシューマンの優しさは感涙ものであった。
後の呑み会で、ピアノを弾かれるべっち友人の業界人曰く、「チッコリーニが弾いた後のピアノは音色が違う」という。弦楽器は上手な人が弾くと音色がよくなるというが、ピアノもそうなのか。本番直前に彼が練習した後調律したらダメなのよ、でも今日はそれをやっちゃったみたい、最初の方は音が硬かったわ。とのこと。そんなものを聞き分ける耳は無いが、練習で数時間弾いた後のピアノは全然音が違うのだそうだ。事情を判ってない調律師は、その彼仕様になった音を壊しちゃいけないんだそうで、なんとも繊細で奥深い話だ。

演奏会後の呑み会はまさに「ギョーカイ人」のあつまりだ。べっちの交友範囲はこういう広がりがあるんだな。演奏家のポートレートを撮るカメラマン、放送局、レーベル(古くはレコード会社っつうのか)、プロデューサー、一人かたぎかと思いきや、某ピアノ国際コンクール入賞経験者。皆「好きなこと」を仕事にしている人達。これまた話題が新鮮で、楽しかった。三鳥ホールが、演奏写真家的にも録音業者的にも親切に作られているすばらしいホールだということがよおおおくわかりましただ。
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by violatsubone | 2010-03-16 19:00 | 音楽鑑賞